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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)2750号 判決 1956年4月30日

原告

飯嶋ひで子 外九名

被告

中沢珍和 外一名

主文

被告両名は連帯して原告飯嶋ひで子に対し六二三、七二四円、原告飯嶋美子、同飯嶋俊郎、同飯嶋栄二、同飯嶋民行、同飯嶋彷侊、同飯嶋ます子、同飯嶋百治、同飯嶋和訓、同飯嶋実に対し各一六六、三八三円及び右各金員に対する昭和二九年六月九日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

(省略)

理由

亡飯嶋角之助が原告等主張の日時に、原告等主張の場所において被告中沢の運転する貨物自動車と接触した結果死亡するに至つたことはいずれも当事者間に争がない。そこで本件事故が被告中沢の過失に基くものかどうかについて判断するに、成立に争のない甲第四号証、第六号証の一乃至三、第七、第八号証によると、被告中沢は被告会社所有の貨物自動車京一―一一、三四四号を運転して前記道路の中約一一メートルのコンクリート舗装部分の左端から約五メートルのところに貨物自動車の左車輪を置き、時速三五キロメートルで北進中、進路前方約七〇メートル先に国鉄片町線踏切の遮断機が昇つているのを認め速度を約二〇キロメートルに減じたが、反対方向より進行して来る自動車と前方踏切の状況に注意を奪われ、角之助が左側前方を自動自転車を運転して北進中であることに全然気付かず、右踏切の手前約三五メートルの地点で、自動車運転台左扉附近の部分を角之助の運転する自動自転車の右ハンドルに衝突同人を地上に転倒させ、その結果角之助は頭部強打撲による頭蓋底骨折により死亡するに至つたものであることを認めることができる。右認定の事実に従えば本件事故は被告中沢の過失に基くことは明白である。被告は本件事故は角之助が被告中沢の運転する貨物自動車を追越そうとして追突したのであるから、角之助の過失に基因するものであり、被告中沢の責任ではないと主張するが、これを認めるべき証拠は何もない。従つて被告中沢は本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

次に原告等の被告会社に対する請求につき判断するに、成立に争のない甲第五号証、前示甲第六号証の一乃至三によれば、被告中沢は本件事故当時被告会社所有の貨物自動車に助手井藤秋夫を同乗させ運転していたものであることが認められるから、反証のない限り被告会社の被用者としてその業務に従事中であつたと推認するのが相当である。そうすると被告会社は被告中沢の使用者として、被告中沢が被告会社の事業執行について加えた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

そこで損害額につき判断するに、証人山本増雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、同証言、原告ひで子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一号証、右尋問の結果によると、角之助は二〇年以上前から松下電器産業株式会社の下請工場を経営しており、死亡当時の昭和二八年五月頃は約二五坪の工場にパープレス三台、モーター二台等を設備し、工員約五名を使用し、尚会社の乾電池、ラジオの部分品を製造しており、右当時における角之助の工場経営による収入は一ケ月約一四万円であつて、角之助は原告ひで子に家計費として角之助自身の生活費を含めて毎月五万円を渡していたから、角之助は一ケ月少くとも五万円の純益を得ていたものであり、その内角之助自身の生活費に要するものは一ケ月二万円未満であつたことを認めることができる。そして成立に争のない甲第一号証によると、角之助は明治三五年二月四日生れであつて、本件事故当時年令満五一年三月の男子であつたことが明かであり、右年令の男子の平均余命数が原告主張の一一年九月を下らないことは当裁判所に顕著な事実である。原告ひで子本人尋問の結果によれば、角之助は壮健であつたことが認められるから、角之助はその後少くとも五年間は一ケ月五万円の割合による純益を得ることができたものと認めることができる。そうすると角之助は本件事故によつてその後五年間、純益から同人の生活費を差引いた一ケ月三万円の割合による、合計一八〇万円の得べかりし利益を失つたものといわなければならないが、一時に全額の支払を命ずるについては、ホフマン式計算法により一年毎に年五分の割合による中間利息を控除して算出すべきものであつて、右計算によれば一、五七一、一七三円となることが明かである。しかるに原告ひで子が角之助の妻、その余の原告九名がその子であることは当事者間に争がないから、原告ひで子はその三分の一に当る五二三、七二四円、その余の原告九名は各その三分の二の九分の一に当る一一六、三八三円の損害賠償請求権を相続により承継したというべきである。前示甲第一号証第六号証の三、及び原告ひで子本人尋問の結果によれば、本件事故当時角之助は原告等一家の生活の中心であつて、原告ひで子、同美子を除く原告八名は未成年者であつたことが認められ、角之助の急死にあつて生計はたちまち困窮に陥り精神上うけた苦痛は甚大なものがあつたことは明かであるから、前認定の諸般の事情を考慮し原告ひで子の受けた精神上の苦痛に対する慰藉料は一〇万円、その余の原告九名の受けた精神上の苦痛に対する慰藉料は各五万円を相当と認める。そうすると、被告両名は連帯して原告ひで子に対し合計六二三、七二四円、その余の原告九名に対し各合計一六六、三八三円及び右各金員に対する。本件訴状が被告等に送達せられた日の翌日後であることが記録上明かな昭和二九年六月九日から支払済に至るまで、民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払義務があるといわねばならぬ。そこで原告等の本訴各請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九三条一項但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 細見友四郎 仲江利政)

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